東京医科歯科大学 整形外科

東京医科歯科大学整形外科7

臨床研究、バイオメカニクス研究(運動器外科学)

研究内容

1.膝前十字靱帯損傷・半月板損傷の手術治療に関する多施設共同研究 TMDU-MAKS study: Tokyo Medical and Dental University -Multicenter Arthroscopic Knee Surgery Study

 膝前十字靭帯は膝関節の中央に位置する靭帯で、大腿骨と脛骨(下腿)を結び膝関節の安定性に大きく寄与しています。その役割は、脛骨(下腿)の前方と回旋の制動性(膝関節が脱臼しないようにすること)です。前十字靱帯損傷が生じると、自然に治癒することは難しく、スポーツ選手だけでなく日常生活でも膝に不安定感がある場合は自分の腱を靭帯として移植する再建術を行います。膝蓋腱や内側ハムストリング腱を移植腱として使用する術式などが広く普及しており、良好な治療成績がこれまで報告されていますが、本邦における大規模研究はほとんどなく、不明な点はいまだ多いのが現状です。

 半月板は膝関節内にある線維軟骨で、荷重分散や関節安定性に重要な役割を担っています。半月板損傷が生じると、関節軟骨の変性や摩耗を来たすことにより、長期的には変形性膝関節症に至るリスクが高くなることが知られています。半月板損傷に対する手術としては、縫合術や部分切除術が選択されます。半月板を温存するためには縫合術が望ましいですが、縫合部の再断裂や別の部位が二次的に損傷してしまう危険性を伴います。また長期間経過してしまっている場合や、損傷した部分が強く傷んでしまっている場合には、やむを得ず部分切除しなければならないこともあり、いまだ解決すべき課題が多いのが現状です。

 当院および共同研究施設(12施設)では、2013年より膝前十字靱帯損傷・半月板損傷に対する手術を受ける患者さんのデータを登録させていただき、治療成績に関して調査する研究を開始しています。2017年4月時点で、登録数は1800例超となっています。前十字靱帯再建術および半月板損傷に対する手術について、多施設において術式及び術後経過のデータを登録する制度を構築することにより、術式による治療成績の違いや、それぞれのメリット・デメリットが明らかになる可能性があります。また多施設による共同研究を行うことにより母集団が大きくなり、より信頼しうる結果が得られることが期待でき、それにより将来的によりよい前十字靱帯再建術および半月板損傷に対する手術方法が明らかになると期待しています。

図1. 関節鏡:前十字靱帯再建術
図2. 関節鏡:半月板縫合術
2.前十字靱帯損傷膝に対する三次元加速度計(KiRA)を用いた回旋不安定性の評価

 膝前十字靭帯は、脛骨の前方への脱臼の制御や回旋不安定性の制御に非常に重要な働きをしている靭帯です。膝前十字靭帯を損傷すると前方・回旋不安定性が強くなり、不安感が生じ、スポーツパフォーマンスが低下し、長期的には半月板損傷や変形性膝関節症の進行を伴います。このため不安定性が強い場合やスポーツ復帰を希望される場合は手術が選択されます。回旋不安定性の評価は、前十字靭帯の機能を反映する非常に重要な情報のひとつですが、回旋の動きは三次元的でありダイナミックな動きの中での評価であることから、これまで定量評価は困難とされてきました。

 私たちのグループでは前十字靭帯損傷の患者さんの手術の際に、三次元加速度計(KiRA:Kinematic Rapid Assessment)(図1)を用いて、回旋不安定性の定量評価を行い、より正常に近い安定性のある膝の動きの再獲得を目指して研究しています。

 前十字靱帯再建術時に麻酔下にて徒手検査を行い、KiRAによる回旋不安定性の定量評価を行いました。図2は徒手検査時のKiRA波形を示していますが、前十字靭帯損傷膝では健常膝と比べて回旋不安定性が大きいことが定量的に確認できました。また徒手検査における回旋不安定性の主観的グレードとKiRAによる計測値との相関が高いことが示されました。さらに前十字靭帯再建術中の評価では、同じ張力で移植腱を固定した際には、1束固定よりも2重束の方が回旋不安定性を制動するのに優れていることを示しました。 (Nakamura K et al. KSSTA 2017, Nakamura K et al. Arthroscopy 2016)

 これらの結果を踏まえ、現在では回旋不安定性に影響を与える因子の検討、半月板損傷の回旋制動性における寄与、前外側構成体補強術の回旋制動性における寄与などを、KiRAを用いて検討することにより、より良い前十字靭帯再建術の開発を目指しています。

図1. 三次元加速度計(KiRA)
図2. 回旋徒手検査時のKiRA波形
3.日本人向け人工膝関節ACTIYASの生体内キネマティクスとポスト接触応力

 人工膝関節全置換術において本邦でも様々な機種が使用されていますが、米国で開発されたものが主流であり、日本人の骨形態や機能的要求に必ずしも合致するものではありません。そこで、私達は日本人向け後方安定(PS)型人工膝関節ACTIYAS®を京セラ株式会社と共同開発し、2010年11月から臨床応用しています(図1)。ACTIYASは快適な和式生活を目指し、高い屈曲性能、日本人の骨形態に即した形状、高い耐久性の3つを主な特徴とします。大腿骨コンポーネントは、京セラの技術の粋を集めたセラミックス製で、通常用いられるコバルトクロム合金に比べて軽く、生体内安定性に優れ、ポリエチレンインサートの摩耗が少ないことが特徴です。

 ACTIYASの生体内キネマティクスにどのような特徴があるかを解析し、本邦で使用頻度の高い他の深屈曲型の機種と比較しました(図2)。同様の手法で手術を行い、術後2年以上経過したACTIYASと他機種それぞれ31膝において、ランジとニーリング時の側面レントゲン画像を撮像し、膝関節の動きを調べたところ、ACTIYASは対象機種と比べて、動作時の最大屈曲角度が有意に大きいという結果が得られました。術後の膝可動域は患者さんの満足度にも影響することが知られていますので、この結果は重要です。また、ACTIYASでは屈曲時に安定した大腿骨の後方移動が認められました。前方部分がロープロファイルにデザインされていることや、丸味を帯びたポスト・カムの形状などが寄与したと考えられます(Watanabe T et al. J Arthroplasty 2016) 。

 PS型人工膝関節においては、関節の安定性や円滑な大腿骨ロールバックにポスト・カムの果たす役割が重要です。膝深屈曲や過伸展においてはポストに過剰な負担がかかり、破損を来す例も報告されています。そこで、ACTIYASを元に作成したポストに丸みのあるモデルと、他機種を元にしたポストの角ばったモデルにおいて、有限要素解析を用いてポストにかかる接触応力を調べました。膝の屈曲時には大腿骨の外旋を伴いますが、ポストに丸みのあるモデルでは、接触応力の増加は回旋が加わっても軽微だったのに対し、ポストの角ばったモデルでは、屈曲+回旋で接触応力が大きく増加しました(図3)。過伸展位においても、適合性の問題からACTIYASのタイプで接触応力が小さいことが分かりました(Watanabe T et al. J Arthroplasty. 2017)。

図1. 私達が開発した日本人向け後方安定型人工膝関節ACTIYAS
図2. シェイプマッチング法による動態解析
図3. 有限要素解析によるポストの接触応力
(最終更新:2017-08-13)
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