東京医科歯科大学 整形外科

東京医科歯科大学整形外科7

腰椎変性疾患(腰部脊柱管狭窄症、すべり症など)

病態

腰部脊柱管狭窄症(LCS)は、脊柱管を構成する骨性要素や椎間板、靭帯性要素などによって腰部の脊柱管や椎間孔の狭小化が起こり、神経組織の障害あるいは血流障害が生じ、特有の症状を呈する多様な病態を含んだ症候群です。
臨床で遭遇することが多い脊柱管狭窄症は、加齢現象から生じる変性性のものです。椎間板の変性から椎間板腔の狭小化、脊柱管側への膨隆、椎間関節の退行変性による肥厚、後方の黄色靭帯のたわみ、たくれこみ、肥厚などによって、中心性狭窄または外側部狭窄を生じます。
また、変性すべり症は、椎間関節の関節面が鋭角化し、変性が進むにつれ上位椎体が下位椎体の前方へすべりを生じるものです。40歳以上の中年女性、第4腰椎(L4)に最も多く発生し、次に第3腰椎(L3)に多く認められます。
椎弓に骨折をきたし、分離症から分離すべり症性狭窄症へと進むこともあります。腰椎分離症は多くは小学生~中学生の時期に腰の伸展・回旋動作によって生じます。成長期の活発な運動で荷重が関節突起間部に繰り返し加わって生じるストレス骨折と考えられており、前弯はつよいL4, L5に発生する例が大半です。年齢を重ねていくうちに分離した椎体と椎弓はそれぞれ安定性を失い、椎間板変性に陥ると椎体は前方にすべり出し、経年変化ですべり症(分離症から発展する頻度はおよそ10%程度)となります。
変性側弯症では椎間板の左右非対称な変性、狭小化から関節症性変化が起きて、回旋変形や、更に後弯変形も合併して後側弯症となります(後述)。

症状

症候別分類として馬尾型(圧迫レベル以下の多恨性障害、両側性下肢症状、臀部・会陰部の異常感覚、膀胱直腸障害など)、神経根型(下肢・臀部の疼痛を特徴とした単根性障害)、混合型(馬尾型+神経根型)があります。
腰痛:動作時に増悪し、安静時には軽減することが多いです。神経圧迫や椎間板性、椎間不安定性、筋・筋膜性腰痛などの病態が混在します。
下肢症状:神経根性疼痛として、下肢に放散する痛みが生じます。馬尾障害に伴い、立位・歩行時に両下肢から会陰部にかけてのしびれや冷感、灼熱感、ひきつれ(つっぱり感)、締め付けなどが出現または増悪します。
間欠性跛行:LCSによる間欠性跛行は腰椎の伸展(背中を反る)、立位や歩行負荷によって症状が出現し、腰椎の前屈や屈み込み、座位で症状が軽減・消失します。LCSによる神経性間欠性跛行と末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化など)による跛行との鑑別が重要となりますが、両者を合併していることもあります。

検査

理学所見
姿勢と歩行

前屈姿勢での歩行で下肢症状が改善したり、症状出現後の前屈によって症状が改善します。自転車移動は問題がないなどの症状がLCSに特徴的です。
腰椎可動域と神経伸展試験:伸展位の保持にて下肢症状が再現または増強します。Kempテスト、下肢伸展挙上テスト、大腿神経伸展テストなどの神経伸展試験を行います。

神経症状

筋力低下や知覚障害、深部腱反射の異常について検査します。
膀胱直腸障害の有無:頻尿や残尿感が多く、時には歩行時に会陰部の知覚異常の出現とともに失禁する例もあります。
足背動脈の触知:足背動脈や後脛骨動脈の触知と左右差を調べ、重篤な末梢動脈疾患と鑑別します。

画像診断
単純X線

腰椎6方向撮影を行います。不安定性評価のために立位と臥位での側面前・後屈撮影を用います。側弯や後弯変形があれば、全脊柱長尺撮影を行います。

MRI

非侵襲的に硬膜管や神経根、椎間板などを評価できる有用な検査ですが、臨床症状と合致しない狭窄(偽陽性)もあります。また、仰臥位での撮影のため、負荷のかかった状態ではないことを念頭に置く必要があります。

左:MRI矢状断麺 右:体軸断面 矢印部に狭窄を認める
左:MRI矢状断麺 右:体軸断面 矢印部に狭窄を認める
脊髄造影

腰椎穿刺からくも膜下腔に水溶性脊髄造影剤を注入する検査で、立位による動的変化(屈曲・伸展負荷)を描出でき、前後像で、根嚢像の欠損ないし変形、部分欠損、造影剤柱の不完全ブロック、あるいは完全ブロックなど多彩な所見を呈します。造影後CTを加えると硬膜管の横断面での変形など詳細な画像を得ることができます(CTミエログラフィー)。侵襲的な検査であり、当院では、手術を前提とした場合や診断が困難な場合など詳細な情報を得るために、2泊3日の入院にて試行しております。

神経根ブロック

X線透視下も神経根に針を刺入して、放散痛出現を確認し、造影剤を注入します。下肢放散痛の部位と、普段感じる下肢痛部位とが一致するかを確認します。局所麻酔薬を注入し、症状消失の有無を確認します。

治療

保存治療

LCSの自然経過は比較的良好とされており、保存治療が基本となります。しかし、保存療法で効果が得られず、日常生活が制限され、筋力低下や膀胱直腸障害などの麻痺を有する症例は手術適応と考えられます。
薬物治療:鎮痛薬、筋弛緩薬、ビタミンB12製剤、プロスタグランジンE1製剤が投与されます。
神経ブロック:硬膜外ブロック、神経根ブロックなどがあります。
外固定:腰椎の伸展を制限したコルセットなどがあります。
運動療法:腹筋・背筋の強化訓練によって体幹バランスの向上を目指します。

手術療法

手術適応のあるLCSに対して、脊柱筋に侵襲の少ない片側進入両側除圧術や、筋肉温存型腰椎椎弓間除圧術を行っており、手術方法の選択およびそれぞれの問題点について検討しています。また、腰椎すべり症や脊椎変形の強い症例には、脊椎固定術あるいは脊椎制動術を適宜併用し、除圧単独群と比較して検討を行っています。

腰椎後方除圧術

不安定性のないLCSに対して、障害レベルの後方要素を部分切除します。
① 拡大開窓術(両側、片側進入両側除圧、棘突起縦割式など)
② 広範囲椎弓切除術

腰椎後方除圧固定術

術前の椎間不安定性がある病態や除圧操作による椎間不安定性が出現する可能性がある場合、除圧操作に加えて固定術を行います。
① 後側方腰椎固定術(posterolateral lumbar fusion: PLF):後方から椎間関節、横突起を展開して骨移植をする、最も一般的な方法です。当院ではオリジナルのハイブリッドグラフト(低圧導入した骨髄液/多孔質β-TCP/自家骨bone chip複合体)を用いて高い癒合率と良好な臨床成績をあげております。
図4
② 腰椎前方進入椎体間固定術(anterior lumbar interbody fusion: ALIF):前方から椎体間の椎間板を掻爬して骨移植する方法です。
③ 後方経路腰椎椎体間固定術(posterior lumbar interbody fusion: PLIF):椎弓根スクリューを併用して、後方から脊柱管除圧と除圧部からの椎体間固定術を行う方法です。
④ 経椎間孔的腰椎椎体間固定術(transforaminal lumbar interbody fusion: TLIF):椎間関節を切除して椎間孔部から後方椎体間固定術を行う方法です。
移植骨には当科オリジナルの人工骨であるリフィット(Hap/Col, HOYA)を併用することもあります。高い癒合率と良好な臨床成績をあげております。
⑤ 側方進入椎体間固定術(oblique lateral interbody fusion: OLIF):近年、腹部の横から数センチの傷でやや斜め前方から固定用ケージを挿入することが可能となり、後方から経皮的椎弓根スクリューを併用する術式があります。非常に低侵襲な手技でメリットも多く、合併症に留意しながらこの新しい術式を応用しています。

引用・参考文献 大川淳編 まるごと脊椎これ1冊 MCメディカ出版 2015

(最終更新:2016-07-18)
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