当教室について

教授挨拶 – 運動器外科学 教授 古賀 英之

関節機能の温存・再建を目指し診療・研究の両面からアプローチする

 運動器外科学 教授 古賀 英之

大学院運動器外科学は東京科学大学整形外科を母体にした大学院の教室で、臨床科としての整形外科の中で、主に四肢の関節外科を担っています。また本分野は、寄附講座である軟骨再生学と共に、関節機能に関わる臨床研究、基礎研究を行っています。

臨床分野における本分野の最大の特徴として、1994年より世界に先駆けて行っている、膝前十字靭帯損傷に対する2重束再建術が挙げられます。その後の様々な臨床的、バイオメカニカル的な検討に基づいた術式の変遷を経て、現在の術式である半腱様筋腱を用いた解剖学的遺残組織温存2重束再建術を確立させています。一方で再損傷のリスクが高いアスリートに対する手術や再受傷に対する再々建術の際には、骨付き膝蓋腱や骨付き大腿四頭筋腱の使用や、場合によっては前外側構成体補強術を追加することにより不安定性の再発や再受傷のリスクを下げる取り組みを行っています。また臨床研究としては当院ならびに共同研究施設において、日本で初めてとなる膝前十字靭帯損傷・半月板損傷に対する多施設共同研究を開始し、前十字靭帯再建術および半月板損傷に対する手術においてより高いエビデンスを国際的に発信しています。前十字靭帯損傷の予防にも力をいれており、私たちが世界で初めて明らかにした前十字靭帯損傷の詳細な受傷メカニズムに基づいたその予防、また手術後の再損傷予防に積極的に取り組んでいます。

また私たちは膝関節において重要な荷重分散機能を担っている半月板に注目し、半月板の再生と治癒促進についての基礎研究、ならびによりよい半月板手術方法の開発をめざした研究を行ってきました。特に近年では半月板が荷重部よりも外方に飛び出してしまい機能しなくなってしまう、逸脱という病態に着目しています。これまでこの病態に対する有効な治療法はありませんでしたが、私たちは世界初となる新たな手術法として関節鏡視下セントラリゼーション法を考案し、良好な成績をあげています。また当院再生医療センターとの共同研究により、滑膜由来間葉幹細胞を用いた軟骨・半月板損傷に対する再生医療において、主に臨床面で貢献しています。

初期の変形性膝関節症に対しては関節温存術に力をいれています。その代表的術式である高位脛骨骨切り術は通常やや外反膝(X脚)になるように矯正を行うのが一般的ですが、私たちはやはりその多くの症例で見られる半月板の逸脱に注目し、矯正の程度を中間位とし、半月板セントラリゼーション法と組み合わせて手術を行うことにより、スポーツ活動なども含めた機能的評価および長期予後の改善を目指しています。また最近では将来変形性関節症へ進行しないようにするための予防的介入についても模索しています。

一方で末期の変形性関節症に対しては人工関節置換術を行っています。
人工膝関節置換術においては当院で開発した人工関節を用いています。また両側の股関節や膝関節に変形がある患者さんに対しては両側同時に手術を行うことにより、患者さんの負担を少なくすることを心がけています。

また関節痛に対する保存的治療に対する研究として、変形性関節症の疼痛機序に関する研究を行っており、変形性関節症の疼痛機序の解明、新たな薬剤の開発とその治療効果の検討、変形性関節症・半月板損傷に対する再生医療とその機序の解明などの検証を行い、関節の疼痛をいかに和らげることができるかを明らかにしようとしています。

これまで述べてきましたように、運動器外科学は東京科学大学整形外科において四肢関節外科における臨床・研究の発展に貢献してまいりました。今後も有意義な情報を多くの関係者の方に発信し、運動器疾患の正しい方向性を示せるよう、私たちは努力を重ねています。特に関節疾患の治療にお困りの方に対し、私たちの臨床・研究成果が少しでもその解決の一助になれるようであれば幸いです。

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