当教室について

教授挨拶 – 応用再生医学分野 教授 関矢 一郎

実際に患者様に届く再生医療の実現を目指した基礎研究から産業化までの連携した研究活動の展開

 再生医療研究センター長
大学院応用再生医学分野教授

関矢 一郎

再生医療研究センターは、2013年4月に再生医療の実用化を目的として新設されました。前年秋には、京都大学の山中伸弥教授がノーベル医学・生理学賞を受賞し、iPS細胞を中心とした再生医療を国民に迅速・安全に提供することを目的とした再生医療推進法の成立が進められていました。この「夢の再生医療」への注目が集まる中、私たちは速やかに国の審査委員会の審議を受け、臨床研究「半月板縫合後の滑膜幹細胞による治癒促進」を開始しました。この半月板損傷への細胞治療は、日本での初めての取り組みでした。以降、本センターは、実際に患者様に届く再生医療の実現を目指し、基礎研究から産業化までの連携した研究活動を展開しています。

応用再生医学分野は、再生医療研究センターの中心的な大学院講座です。変形性膝関節症に対する新規治療法の確立を主な目的として研究を進めています。軟骨治療は、再生医療の中でも特に進んだ分野として位置づけられていますが、手術の侵襲性、高いコスト、変形性膝関節症への対応の課題などが挙げられます。また私たちの研究成果として、半月板の機能不全が変形性膝関節症の最大の原因であることが明らかになってきました。これらの課題に取り組む一環として、当分野は滑膜に由来する間葉系幹細胞(滑膜幹細胞)を用いた軟骨・半月板・変形性膝関節症の再生医療研究を推進しています。

幹細胞は、自分と同じ細胞を作る能力と、他の細胞へ分化する能力を持っています。2005年、私たちは、骨髄、骨膜、筋肉、脂肪と比べた結果、膝関節腔を裏打ちする滑膜から取り出した滑膜幹細胞が安定して増えやすく、最も軟骨に分化しやすいことを発見しました。この成果はArthritis and Rheumatologyに2005年にpublishし、これまで1000回以上引用されています。 次いで、ラット、ラビット、ピッグ、モンキーといった動物をモデルとした研究の結果、滑膜から分離して増やした未分化な滑膜幹細胞を軟骨欠損部に移植すると、軟骨が再生されることがわかりました。さらに、関節鏡視下で低侵襲に細胞を移植する方法も開発しました。この成果をもとに、外傷で軟骨が欠損した患者さんの協力を得て、軟骨欠損部に滑膜幹細胞を移植する研究を行いました。その結果、膝の症状と構造改善が確認できました。

軟骨の次は、半月板です。半月板は、大腿骨と脛骨の間で荷重分散、安定性、潤滑の役目をしている組織です。変形性膝関節症の患者さんの全員が、半月板の位置がずれたり(逸脱)、擦り切れたりして、半月板の機能不全を生じているといっても過言ではありません。半月板を切除すると高率に変形性膝関節症が進行しますが、現在の半月板手術の約7割が切除術となっています。半月板を温存する手術は縫合術ですが、再断裂が問題になります。私たちは一般的に切除術の適応になる半月板損傷に対して、縫合後に滑膜幹細胞を移植して、半月板を温存する治療の開発を行っています。

これまで、変形性膝関節症に対する薬物治療は、痛みを改善させるもので、軟骨の構造を改善するための治療法はありませんでした。私たちが開発した滑膜幹細胞は、高齢者からでも安定して必要な細胞数を得ることができます。基礎研究の成果に基づくと、これらの幹細胞を膝に注射することで、炎症を抑制し、関節の潤滑を向上させ、さらに軟骨の基質を再生する効果が期待されます。

2023年現在、臨床面では半月板損傷や変形性膝関節症に関する3つの治験を進行しています。研究面では、低侵襲な滑膜幹細胞治療法の開発や、滑膜幹細胞と細胞老化に関して探求しています。骨粗鬆症には骨を増やす治療が多数開発されていることと対照的に、変形性膝関節症の軟骨減少を止める治療法がなかなか開発されません。この要因のひとつは、膝全体の軟骨の厚さを正確かつ感度よく数値化する方法がなく、治療効果の判定が難しいことです。この課題を克服するために、人工知能(AI)を活用しMRIの2次元画像から軟骨領域を抽出して、全自動で3次元的に示し、膝全体の軟骨の厚さを定量化する方法の開発を行っています。さらに、疫学研究「神奈川ひざスタディ」を実施し、変形性膝関節症の進行形式の解明に挑んでいます。

滑膜幹細胞の探求から、現在進行中の臨床治験に至るまで、当センターは再生医療の実用化の先頭を走ってきました。さらに、AIをMRI解析に活用する新しい診断技術の開発や、これを利用した疫学研究の実施を通じて、変形性膝関節症の病態解明に大きく貢献しています。膝疾患で悩む患者さんを救い、日本におよそ1000万人いる変形性膝関節症患者さんの進行を抑え、さらに発症率を減らすために絶えず挑戦し続けます。

ページトップへ戻る