変形性膝関節症

生活の質(Quality of Life)を維持するためには、自分の脚で歩くことのできる健康寿命を伸ばすことが大切です。変形性膝関節症とは、膝関節の軟骨や半月板が傷み、軟骨の下にある骨同士が直接ぶつかり合い関節の変形が進む病気です。歩く時や立ち上がる時の膝の痛み、膝の曲げ伸ばしがしづらい、などの症状が現れます。日本国内で、症状がある変形性膝関節症の方は約800万人いると想定されています。

原因

変形性膝関節症は、遺伝的要因、加齢、体重増加、外傷、ホルモンバランスなどが原因になりますが、特に日本人の場合はO脚(内反膝)が重要な要因です。内反膝では、股関節の中心と足関節の中心を結んだラインが膝の内側を通過するため、内側の軟骨や半月板に過剰な負荷がかかり、摩耗が進行していきます。そして内反膝も徐々に進行します。

検査

単純X線

最も一般的な検査として行われるものがレントゲン、「単純X線検査」です。両膝関節を撮影して変形のある関節と変形のない関節を見くらべることで、関節の骨と骨の間が狭くなっていること(軟骨のすりへりや半月板のずれをあらわす)や骨棘という、関節周囲の骨に過剰な骨ができる所見などを見つけやすくなります。また様々な撮影方法で、変形性関節症の診断と病状の進行を判断します(下図)。

MRI (磁気共鳴コンピュータ断層撮影)

磁石を利用して撮影し、X線を用いていないため被爆が全く無いことが大きな特徴です。X線と異なり関節内の関節軟骨、半月板、靭帯、筋肉など、骨以外の組織を見ることができます。当科では3.0Tの高磁場のものを用いて高解像度の画像で、詳細に評価し、治療方針の決定、綿密な手術計画をたてています(下図)。

治療法

治療として、筋力強化などのリハビリテーション、体重コントロール、鎮痛剤の内服や貼付、ヒアルロン酸注射などの保存的治療が一般的に行われますが、痛みがコントロールできない場合や、将来的な生活の質を考慮した場合、手術を選択することになります。

手術治療

骨切り術

変形性膝関節症の主な手術として、内反膝を矯正する骨切り術と人工関節置換術があります。骨切り術は関節温存手術と呼ばれ、骨の並びを矯正する手術です。手術前に膝の内側を通過していたライン(図1左)が膝の中央やや外側を通過するようになり、内側にかかる過剰な負荷を軽減し、痛みの改善を得る手術です(図1中央)。骨の並びを矯正することで軟骨の状態が改善することも多く、変形性膝関節症の進行を予防する効果も期待されます。手術後約1年経過した時点で固定に使用した金属は抜去するため、体内に金属は残りません(図1右)。一方、人工膝関節置換術も確立された手術ですが、挿入した人工関節のインプラントの耐久性などからスポーツはあまり勧められません。一方、骨切り術では登山やスポーツを続けたいという方にも勧められる手術です。
 
骨切り術には、何通りかの術式があります。脛骨(すねの骨)を膝の近く(高い位置)で内側から切ってくさび状に開いて角度を変え、開いた部分に人工の骨をはさんで安定化させた後、チタン製のプレートで固定するのが開大式高位脛骨骨切り術(オープンウエッジ法)です(図2左)。また、膝の伸びが悪い場合や矯正する角度が大きい場合には、脛骨を外側からくさび状に切って閉じる閉鎖式高位脛骨骨切り術(クローズドウエッジ法)を行います(図2右)。この場合、腓骨も一部切っておきます。脛骨の骨切りのみでは矯正が難しい場合(図3左)、大腿骨(太ももの骨)の骨切りも併用します(図3右)。

術後は早期から膝の曲げ伸ばしの練習や松葉杖での歩行を練習します。脛骨の骨切りの場合は2週間後から、大腿骨の骨切りも併用した場合は6週間後から全体重をかけての歩行を許可します。術後1年以上経過したのち固定で使用した金属は抜去するため、身体に金属は残りません。ボルトの穴も自然と埋まります。人工骨を使用した場合も、自然に吸収されていき、数年以上かけて自分の骨に置換されます。
 
私たちの手術の特徴は、骨切り術の際に傷んでいる半月板もできるだけ温存するということです。変形性膝関節症では、軟骨だけではなく、半月板損傷(断裂)も伴っており、半月板が関節の隙間からずれてしまう半月板逸脱が認められるケースが非常に多いです(図4左)。近年では、変形性膝関節症のほとんどは半月板損傷ならびにそれに伴う半月板逸脱がその発症、進行の大きな原因だと考えられるようになってきています。半月板は手術しても治癒しづらい組織で、また逸脱した半月板を治す治療法はなかったため、かつては半月板切除術が一般治療として行われていました。しかし、半月板を切除すると軟骨がより摩耗することが明らかとなり、近年ではできるだけ半月板を温存する手術が選択されます。手術器械の向上もあり、私たちは損傷した半月板を可能な限り縫合して修復します。また、半月板の逸脱を改善させる術式であり、当科の古賀教授が開発して世界に広めたcentralization手術では(図4中央)、軟骨損傷部が半月板で覆われるため、軟骨損傷の進行予防効果が期待されます(図4右)。変形性膝関節症が急速に進行する半月板後根損傷に対しては、骨孔を作成して修復する手術を行います。

ここまで述べたのは圧倒的に多いO脚のある内側半月板損傷や変形性膝関節症の例ですが、X脚の場合は外側の半月板が傷んでいることが多く、大腿骨を切って骨の並びを矯正し(図2右)、外側半月板の修復手術を行います。

スポーツを行うことを目的とする場合や自分の関節を温存したい場合、次に述べる人工膝関節置換術ではなく、骨切り術が勧められます。

人工膝関節置換術

 人工関節置換術は変形した関節を、金属やセラミック、ポリエチレンなどでできたインプラントで入れ替えることで痛みがなくなり、変形が矯正され、歩行能力が改善されます(下図)。

手術の方法としては、膝関節の一部分だけを人工関節に入れ換える人工膝関節単顆置換術(UKA)や膝蓋大腿関節置換術(PFA)と、膝関節全体を人工関節に入れ換える人工膝関節全置換術(TKA)などがあります。膝の内側、外側だけやお皿の骨の部位のみに変性しているのであれば、UKAやPFAによって前十字靭帯を温存できるメリットがあります。TKAは変形が内側だけでなく外側や、お皿の骨の部位にも及んでいる方、より変形が高度な方が対象となります(下図)。TKAには後十字靭帯を温存するものと、後十字靱帯を切除して、インプラントにその機能をつけたものがあります。人工膝関節置換術も骨切り術と同様に様々な方法、インプラントがあり、上述した詳しいX線やMRIなどの画像評価と、診察所見、症状などから、個々の患者さん毎に最適なものを選択しています。

また当院では両方の膝が悪い方には両側同時手術も行っており、片側の手術と同じ手術時間で行うことが可能です。また股関節も悪い方は股関節班と協力して全人工股関節全置換術と同日の手術を行っております。

入院期間は片側の方で約2週間、両側の方で約3週間程度です。術翌日から痛みの範囲内で膝を動かすことや荷重ができます。ほとんどの患者さんは術後2週間以内に杖を使って歩くことができます。入院中に、日常生活動作、特に、入浴、階段昇降について訓練します。自転車や車の運転は退院後数ヵ月でできるようになります。水泳やサイクリング、またゴルフやハイキング程度の運動はできるようになります。

人工膝関節再置換術

 人工膝関節のインプラントが破損したり、ゆるんでしまったり、細菌による感染などが原因で、インプラントを抜去して新しいものに入れ替える人工膝関節再置換術の手術が必要となることがあります(下図)。再置換手術は初回の手術に比べ、より高度な技術と専用のインプラントが必要となります。当院では再置換術に対しても豊富な経験があり、治療成績は良好です。

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