東京医科歯科大学 整形外科

東京医科歯科大学整形外科7

高齢者大腿骨近位部骨折

病態

大腿骨近位部骨折とは、脚の付け根・股関節に近い部分での大腿骨骨折の総称です。この部分の大腿骨は、股関節から近い順に、骨頭・頚部・転子部・転子下と分けられています。(図1)これらのうち、骨頭骨折や転子下骨折は、主に交通事故や労働災害などの高エネルギー外傷の結果として生じることが多い一方、頚部骨折や転子部骨折は、主に高齢者の転倒などの低エネルギー外傷によって生じます。骨粗鬆症を患う高齢者(65歳以上)に多く発生するのはもちろんですが、若年であっても、基礎疾患やその治療による続発性骨粗鬆症(主には長期間のステロイド製剤使用によるもの)をお持ちの方に発生することもあります。

図1 大腿骨近位部の解剖(大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドラインより抜粋)

超高齢社会となった本国においては、高齢者大腿骨近位部骨折は年々増加しており、2010年には約17万人、2030年には約26万人、2043年には約27万人と予測されています。

症状

多くの症例では、歩行中の転倒や椅子やベッドからの転落などによって生じます。この骨折を受傷した場合、転倒直後から股関節周囲の激痛が生じ体動困難となります。したがって、ほとんどの患者さんが、救急要請をして救急車で病院へ搬送されることとなります。股関節周囲の激痛に加え、受傷した側の下肢が異常に外旋していたり(がに股)、反対側に比べて極端に短くなっていたりする場合は、大腿骨近位部骨折を強く疑いますので、救急要請することをお勧めします。
稀に、骨折部が噛み込んで安定し、なんとか歩行できる程度の痛みに留まるケースもあります。しかし、骨折を起こしている場合は強い痛みが持続しますので、そのような場合は整形外科を受診されることをお勧めします。

検査

受診後、まずはレントゲン撮影を行います。これによって大部分の大腿骨近位部骨折の診断が可能です。しかし、レントゲン画像だけでは骨折と診断しきれない症例も存在し、その場合はMRI撮影を行います。MRIまで撮影することでほぼ全ての骨折の診断が可能となります。
また、診断が確定した患者さんに対して、より的確な治療方法を選択し、より安全な手術計画を立てるためにCT撮影も行うことがあります。
この骨折を受傷した患者さんはほぼ全例で入院治療が必要となりますので、入院に必要な胸部レントゲン撮影・心電図検査・採血検査も同時に行います。

治療

大腿骨近位部骨折はベッド上での安静やギブス固定のみでは必要十分な固定が得られず、上手な治療ができません。また、患者さんの多くは高齢者のため、痛みによって動けずに寝たきりでいる期間が長くなることで体力が急激に低下し、肺炎や尿路感染症などの骨折以外の病気を生じて生命予後を短くする結果となってしまいます。
したがって、大腿骨近位部骨折は、早期手術・早期歩行訓練(リハビリテーション)の治療が最善とされています。実際、ほとんどすべての患者さんが手術治療を受けて回復されております。
{手術治療の実際}
「大腿骨転子部骨折」
骨折に対する手術治療は、「インプラント(いわゆるボルト)によって骨折部を固定する」、骨接合術が基本となります。大腿骨転子部骨折に対しては、髄内釘といわれる太い心棒とネジ(スクリュー)による骨接合術を当院では主に行なっています。ラグスクリューという太く大きなネジが、骨折部を跨いで挿入されることによって、骨が直接かつ強固に固定されます。この手術によって、ほぼ全例で術翌日からの患肢への荷重を許可した歩行訓練が可能となります。

図2 大腿骨転子部骨折の単純レントゲン画像(左:受傷直後、右:骨接合術後)

「大腿骨頚部骨折」
大腿骨頚部には、骨頭の骨を栄養する重要な血管が存在します。骨折して大きく骨がズレる(転位する)場合、この栄養血管が損傷して骨頭壊死を引き起こします。したがって、骨折転位の大小によって治療方法が分かれます。
骨折の転位が小さい場合(非転位型)は、骨接合術を行います。この場合のインプラントは、ラグスクリューとサイドプレートをもつデザインの物を当院では主に用いています。この手術でも、基本的には術翌日から患肢への荷重を許可した歩行訓練が可能となります。
骨折の転位が大きい場合(転位型)は、人工骨頭置換術を行います。骨頭壊死に至るであろう骨頭部分を、人工股関節の技術を用いて置換する手術です。この手術でも、基本的には術翌日から患肢への荷重を許可した歩行訓練が可能となります。

図3 大腿骨頚部骨折の単純レントゲン画像(左:受傷直後、中:骨接合術後、右:人工骨頭置換術後)

「当院での全身管理体制・手術治療体制」
高齢者大腿骨近位部骨折患者さんは受傷前からいくつかの併存疾患を有していることも多く、周術期に肺炎や尿路感染症、静脈血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)などといった内科疾患の合併リスクが高いとされています。当院では、これらの内科疾患の治療を専門とする総合診療科医が本骨折患者の主治医として担当する診療体制を整備しています。全身管理は総合診療科医が、手術は整形外科医が責任を持って担当することにより、より早期かつより安全な手術治療や、手術待機期間・入院期間の短縮などを実現しています。
また当科では、骨接合術は外傷整形外科医が、人工骨頭置換術は股関節外科医が行なっています。より専門性の高い医師が責任を持って手術を担当することにより、低い再手術率(1-shot surgery)を実現しています。

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