東京科学大学整形外科では臨床解剖学、秋田恵一教授や関節機能再建学、望月智之准教授といっしょに骨・関節構造に関わる肉眼解剖学的研究を行っています(http://www.tmd.ac.jp/grad/fana/)。今さら解剖と思われるかもしれませんが、ミクロな視点の解剖学的知識が発生生物学や細胞生物学といったミクロレベルの知識が増加してきたのに対し、マクロの視点の知識はこの100年間は大きな進歩は無く、臨床現場における手術手技や画像解析の発展に追いついていないというのが現状です。かつては、マクロレベルの解剖学が中心でありましたが、関節鏡や内視鏡の発達により視野が拡大され、それまではあまり問題にされなかったレベルについて議論されるようになりました。さらに、手外科や神経外科を中心とした顕微鏡下の微小外科の分野も急速に発達しており、これらの技術の応用をめざした基礎研究も求められています。そこでミクロレベルの解剖学的知見とマクロレベルの解剖学所見とが融合したレベルを、中間的という意味を持った用語であるメゾ(meso)レベルと定義し、「メゾレベルの解剖学」の発展を目指しています。
研究には東京科学大学の大学院生のみならず、北は北海道から、南は九州まで各分野で活躍される整形外科臨床家が医局の垣根を越えてその情熱を昇華させるため、忙しい臨床業務の傍らに社会人大学院生や共同研究者として参加しています(図1)。
図1 定期的に整形外科関連解剖テーマの進捗報告会を行っています
研究内容
1. 肩関節ならびに周囲構造の形態学的解析
古典的な解剖学教科書に記載される腱板停止部を覆す新たな知見、従来注目されていなかった上方関節包の局在性、さらには肩甲上神経や腋窩神経の走行・分枝などに関する研究を行い、解剖学的に配慮された腱板修復の術式を提唱しています(図2)。
図2 我々の提唱する解剖学的腱板修復 (Mochizuki et al., JBJSAm 2009より改編)
2. 解剖学からみた肘関節の病態や安定性に関する研究
テニス肘(上腕骨外側上顆炎)の病態はいまだよくわかっていません。これに対して筋腱起始部の特徴や関節包との層構造を明らかにすることにより、解剖学的な観点から病因究明をめざしています(図3)。さらには内側・外側々副靱帯などの安定化機構に対してもこれらの手法を応用して臨床的な診断・治療方針などの方針決定に役立てています。
そのほか手関節・指・股関節・膝関節・足関節・足趾・脊椎などあらゆる骨関節領域において解剖学的研究を展開し、臨床的問題点解決のため手がかりを模索しています。
図3 肘外側における浅層伸筋群の起始部と関節包・回外筋付着部の関係(Nimura et al., JHSAm 2014より改編)