基礎研究

先端治療開発学 骨代謝(整形外科学)

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世界に先駆けて日本が超高齢者社会に突入し・・・で始まる論評を皆さんは見飽きていることと思います。うんざりしますよね。にもかかわらず、肉体の老化に立ち向かう、われわれ外来の整形外科医に与えられた武器は、消炎鎮痛剤、ヒアルロン酸、ステロイド、局所麻酔、骨粗鬆症治療薬・・・に過ぎません。こんな現状を打破するため、私たちは様々な視点、特に臓器間ネットワークや全身の代謝間の相互作用に着目し、硬組織の老化メカニズムの研究を行っています。以下に最近の研究成果をお示しします。

メンバー

麻生 義則

非常勤講師 麻生 義則

Yoshinori Asou

専門:
股関節外科、骨粗鬆症

研究内容

1. 軟骨代謝におけるサーチュイン遺伝子SIRT6の機能解析

サーチュイン遺伝子は近年同定された老化制御因子ですが、NADによって活性化され、エピジェネティクスな制御を介してゲノムのサイレンシングを行い、その結果老化、寿命を制御しています。哺乳類ではサーチュイン相同遺伝子はSIRT1~SIRT7まで7種類が同定されています。SIRT1、SIRT2は細胞質と核に、SIRT6、SIRT7は核に、SIRT3~SIRT5はミトコンドリアに発現しており、それぞれの機能も異なります。
Sirt6-/-マウスは早期老化の表現型を呈し、生後1ヶ月以内に死亡します。私たちはその軟骨組織を組織学的に詳細に解析し、Sirt6が軟骨の分化、増殖を促進すること、軟骨細胞のSenescence(老化)を抑制することを明らかにしました。また、これらの制御が少なくとも一部は、軟骨分化増殖マスター因子であるIndian hedgehog(Ihh)を介すること、Sirt6はIhhプロモーターと結合し、Ihhプロモーターに対するATF4結合を促進することなどを見出しました(2013 Scientific Reports)。(同)。これらの成果は先進性を評価され、2013年度米国骨代謝学会にて優秀ポスター賞を受賞しました。

脛骨成長板軟骨 Sirt6-/-では増殖層と肥大軟骨層が短縮し静止層が拡大する。

脛骨成長板軟骨 Sirt6-/-では増殖層と肥大軟骨層が短縮し静止層が拡大する。

2. 変形性膝関節症発症におけるSIRT6の機能

次に私たちは変形性膝関節症発症におけるSirt6の機能を解析しました。Sirt6ヘテロノックアウト(Sirt6+/-)は生後9ヶ月にて変形性膝関節症の進行を呈していました。PAI-1は老化制御因子で老化した骨や軟骨で発現が増加しますが、Sirt6+/-マウスの軟骨ではPAI-1の発現が増加しました。間葉系特異的Sirt6欠損マウス(Prx1cre;Sirt6f/f)では関節軟骨基質の発現が著しく阻害されていました。以上よりSirt6は関節軟骨の正常な成熟に重要なこと、Sirt6の減少はPAI-1発現制御を介して変形性膝関節症を悪化させることが明らかとなりました(Maierhabaら 2015 BBRC)。

Sirt6+/-では関節表面の不整が認められる。Prx1cre;Sirt6f/fではSafranin-Oの染色性が著しく低下する。

Sirt6+/-では関節表面の不整が認められる。Prx1cre;Sirt6f/fではSafranin-Oの染色性が著しく低下する。

3. 変形性膝関節症に対するアントシアニジンの予防効果

変形性膝関節症の進行において酸化ストレスは重要な役割を演じます。アントシアニジンは赤ワインの主要なポリフェノールであり、ブドウ種子に多く含まれます。プロシアニジン2量体(B3)は強力な抗酸化力を持つことから、私たちは軟骨代謝に対するB3の効果を、培養細胞およびマウス変形性膝関節症モデル(OAモデル)を用いて検証しました。初代軟骨細胞においてB3はH2O2によって惹起されるアポトーシス、軟骨基質産生低下を優位に抑制しました。H2O2とIL-1はiNOS発現を促進しましたが、B3はこれを著明に抑制しました。OAモデルでは、B3は膝関節の変性、破壊を有意に抑制しました。手術部周囲の腫脹はB3によって抑制されました。TUNEL法にてB3による関節軟骨アポトーシス抑制効果が確認されました。免疫染色ではB3群にてiNOSの発現が抑制されていました。以上、B3は軟骨保護作用と異所性骨化予防効果を示し、少なくとも一部はiNOS発現抑制を介する可能性が示唆されました(Aini Hら 2012 PLoS ONE)。この成果はNature Reviews Rheumatologyにhighlightとして掲載されました。

溶媒投与群(左)と比較してB3投与群(右)では関節軟骨表層の不整が予防された。

溶媒投与群(左)と比較してB3投与群(右)では関節軟骨表層の不整が予防された。

4. 変形性膝関節症発症における膝蓋下脂肪体(IPFP)の機能解析

メタボリックシンドロームは変形性膝関節症の危険因子ですが、マウスに高脂肪食負荷を行い、膝関節の表現型を比較しました。高脂肪食負荷によりC57BL/6Jマウスでは、給餌開始後8週から、肥満に伴うIPFPの肥大化とIFPからの炎症性サイトカイン発現の亢進が認められました。これに伴い関節軟骨ではTUNEL陽性細胞が増加し、給餌開始後12週には旺盛な滑膜増殖と骨棘形成が認められました(岩田ら 2013 PLoS ONE)。

高脂肪食開始後12週(右)では通常食(左)と比較し、膝蓋下脂肪体(IPFP)が肥大し、血管増生も認められる。

高脂肪食開始後12週(右)では通常食(左)と比較し、膝蓋下脂肪体(IPFP)が肥大し、血管増生も認められる。

高脂肪食開始後12週(最下段 中央、右)では骨棘形成(▲)と滑膜増生(矢印)が認められる。

高脂肪食開始後12週(最下段 中央、右)では骨棘形成(▲)と
滑膜増生(矢印)が認められる。

5. 高脂肪食によって誘導される変形性膝関節症に対するキサンチンオキシドリダクターゼ(XOR)の機能解析

メタボリックシンドロームは高尿酸を伴いますが、尿酸は、キサンチンやヒポキサンチンのようなオキシプリンからキサンチンオキシダーゼ(XOR)によって合成されます。コホート研究の結果から尿酸代謝と変形性膝関節症発症が関連する可能性が示唆されますが、そのメカニズムは不明です。したがって私たちは、メタボリックシンドロームと変形性膝関節症の関連におけるXORの機能を解析しました。生後7週雄C57BL6Jマウスを通常食群、高脂肪食群(HFD群)に分類しし、それぞれ半数にXOR阻害剤のフェブキソスタット(FEB)1μg/gを飲水投与しました。その結果、飼養開始後12週では、膝関節ではHFDによりOA変化が進行しましたが、FEB投与によってこれらの変化は軽減しました。関節軟骨のTUNEL染色ではHFD群において陽性細胞が増加しましたがFEB投与により著しく減少しました。IFPではHFDによりインフラマソームNLRP3が増加しましたが、XORはこれを抑制し、これに伴い、IL-1βの発現も抑制されていました。以上より膝関節においてHFDによって惹起されたIFPの炎症にXOR活性増加とインフラマソームが寄与することが明らかとなり、XORがOA制御の新たなターゲットとなる可能性が示唆されました(Zulipiyaら 2016 BBRC)。

膝蓋下脂肪体のmRNA発現。高脂肪食負荷によって増加した
IL-1, NLRP3, iNOS(HFD, 中央)はフェブキソスタットによって抑制された(HFD+FEB)

2012年以降の業績

1. MicroRNA-145 regulates osteoblastic differentiation by targeting the transcription factor Cbfb. Fukuda T, Ochi H, Sunamura S, Haiden A, Bando W, Inose H, Okawa A, Asou Y, Takeda S. FEBS Lett. 2015 Oct 8. pii: S0014-5793(15)00873-X
2. Pivotal role of Sirt6 in the crosstalk among ageing, metabolic syndrome and osteoarthritis. Ailixiding M, Aibibula Z, Iwata M, Piao J, Hara Y, Koga D, Okawa A, Morita S, Asou Y,. Biochem Biophys Res Commun. 2015 Oct 23;466(3):319-26
3. Mitochondrial superoxide in osteocytes perturbs canalicular networks in the setting of age-related osteoporosis. Kobayashi K, Nojiri H, Saita Y, Morikawa D, Ozawa Y, Watanabe K, Koike M, Asou Y,, Shirasawa T, Yokote K, Kaneko K, Shimizu T. Scientific Reports. 2015 Mar 16;5:9148.
4. Enhancement of Runx2 expression is potentially linked to β-catenin accumulation in canine intervertebral disc degeneration. Iwata M, Aikawa T, Hakozaki T, Arai K, Ochi H, Haro H, Tagawa M, Asou Y,, Hara Y. J Cell Physiol. 2015 Jan;230(1):180-90.
5. Tumor necrosis factor-α enhances RANKL expression in gingival epithelial cells via protein kinase A signaling. Fujihara R, Usui M, Yamamoto G, Nishii K, Tsukamoto Y, Okamatsu Y, Sato T, Asou Y, Nakashima K, Yamamoto M. J Periodontal Res. 2014 Aug;49(4):508-17
6. Sema3A regulates bone-mass accrual through sensory innervations. Fukuda T, Takeda S, Xu R, Ochi H, Sunamura S, Sato T, Shibata S, Yoshida Y, Gu Z, Kimura A, Ma C, Xu C, Bando W, Fujita K, Shinomiya K, Hirai T, Asou Y, Enomoto M, Okano H, Okawa A, Itoh H. Nature. 2013 May 23;497(7450):490-3.
7. Sirt6 regulates postnatal growth plate differentiation and proliferation via Ihh signaling. Piao J, Tsuji K, Ochi H, Iwata M, Koga D, Okawa A, Morita S, Takeda S, Asou Y. Scientific Reports, 2013 Oct 23.
8. Initial Responses of Articular Tissues in a Murine High-Fat Diet-Induced Osteoarthritis Model: Pivotal Role of the IPFP as a Cytokine Fountain. Iwata M, Ochi H, Hara Y, Tagawa M, Koga D, Okawa A, Asou Y. PLoS ONE. 2013 Apr 12;8(4)
9. Cytoplasmic reactive oxygen species and SOD1 regulate bone mass during mechanical unloading. Morikawa D, Nojiri H, Saita Y, Kobayashi K, Watanabe K, Ozawa Y, Koike M, Asou Y, Takaku T, Kaneko K, Shimizu T. J Bone Miner Res. 2013 May 14.
10. Variations in gene and protein expression in canine chondrodystrophic nucleus pulposus cells following long-term three-dimensional culture. Iwata M, Ochi H, Asou Y, Haro H, Aikawa T, Harada Y, Nezu Y, Yogo T, Tagawa M, Hara Y. PLoS One. 2013 May 2;8(5)
11. Procyanidin B3 prevents articular cartilage degeneration and heterotopic cartilage formation in a mouse surgical osteoarthritis model.  Aini H, Ochi H, Iwata M, Okawa A, Koga D, Okazaki M, Sano A, Asou Y. PLoS ONE. 2012;7(5)  Commented in Nature Reviews Rheumatology. 2012 Jun 29;8(7):369. Osteoarthritis: Procyanidin B3 prevents OA in vivo. Ray K.
12. Runx2 haploinsufficiency ameliorates the development of ossification of the posterior longitudinal ligament. Iwasaki M, Piao J, Kimura A, Sato S, Inose H, Ochi H, Asou Y, Shinomiya K, Okawa A, Takeda S. PLoS ONE. 2012;7(8)
13. Evaluation of the association between runt-related transcription factor 2 expression and intervertebral disk aging in dogs. Itoh H, Hara Y, Tagawa M, Koga D, Okawa A, Asou Y. Am J Vet Res. 2012 Oct;73(10):1553-9.

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