基礎研究

神経研究グループ(整形外科学)

整形外科では、運動機能障害だけでなく痛みを伴う疾患も多い。慢性疼痛の有症率は15.4%と報告されており、痛みの原因、神経学的機序の理解と適切な治療が必要となる。交通事故や転落などによって引き起こされる高エネルギー外傷は、脊髄損傷や腕神経叢損傷、坐骨神経損傷など神経機能に大きな障害をもたらし、神経障害を有する患者の2~4割は、既存の痛み止めが無効であるという報告がある。このように慢性的な神経障害性疼痛は、患者にとって麻痺と並び機能障害を引き起こし、新規治療法の開発が急務となっている。
現在、私どもの研究グループは、「神経損傷後の運動機能再建」と「難治性疼痛に対する新規治療法の開発」をテーマにしています。

メンバー

平井 高志

先端医療開発学講座 整形外科学分野

准教授 平井 高志

Takashi Hirai

専門:
脊椎脊髄外科

榎本 光裕

非常勤講師 榎本 光裕

Mitsuhiro Enomoto

専門:
脊椎脊髄外科

蘇 晨

先端医療開発学講座 整形外科学分野

留学生/大学院生 蘇 晨

Chen Su

ヤン モモ

先端医療開発学講座 整形外科学分野

留学生/大学院生 ヤン モモ

Mengmeng Yan

研究内容

1.神経損傷後の運動機能回復と新規治療法の開発

近年、脊髄損傷に対する基礎研究が発展し、脊髄自身が持つ神経幹細胞の存在や軸索再生阻害メカニズムなど多くの再生因子と再生阻害因子が報告されています。我々は1997年から分子生物学的手法や再生神経回路網の解析によって脊髄再生のメカニズムに関する研究を行ってきました。最近では、動物を用いた脊髄損傷モデルを作製して組織学的に脊髄の形態学的回復の評価を行い、損傷環境に不十分な神経栄養因子の補充、失われた組織に対する幹細胞移植等の機能回復実験を行いました(Ukegawa et al. Cell Transplantation 2014)。さらに、リハビリテーションは機能回復に重要な役割として位置づけられていて、局所の再建以外に脊髄から末梢神経、筋組織まで幅広く回復を得ることが必要と考えています。また、末梢神経再生にも積極的に取り組んでいて、最近では神経線維が蛍光タンパクで光るマウスを使用しています(写真)。現在、留学生(李)が担当になって研究を進めています。
神経 図1

2.神経障害性疼痛のメカニズムと分子標的治療の開発

急速に拡大する高齢化社会で、我々整形外科が取り組むべきもっとも大きな問題の一つは「運動器に生じる痛み」と考えています。特に神経痛は運動器変性疾患だけでなく悪性腫瘍にも合併し患者さんの生活の質を著しく低下させます。当科では2009年から神経障害性疼痛の分子生物学的メカ二ズムの探索と新規治療方法の開発を行っています。平井と榎本は、痛みの原因といわれているカプサイシンをリガンドとして持つTRPV1レセプターを中心に神経痛との関連を調べ、当大学神経内科教室との共同研究でTRPV1の発現を効率に抑制させるshRNAをコードするアデノ随伴ウイルスを治療ベクターとして使用し(Hirai et al. Human Gene Ther. Methods 2012)、マウス神経障害性疼痛モデル(図)に対してその効果を報告してきました(Hirai et al. Mol. Ther. 2014)。現在も、鏑木を中心に神経内科教室と共同で神経特異的にデリバリーされる非ウイルス性核酸医薬を開発しています。従来の治療薬で効果のない難治性神経障害性疼痛患者さんに新規治療薬を臨床の場に届けるため日々研究を進めています。
神経図2

また、当グループでは北米神経科学大会や国際疼痛学会等に毎年参加し、積極的に国際交流を行っています。榎本はマイアミ大学、平井はカリフォルニア大学ロサンゼルス校(写真:Prof. Spigelmanラボ)でポスドクの経験があります。留学生の受け入れや学部学生の発表指導も行っていて活発な研究活動を行っています。
図

ページトップへ戻る