第56回 日本整形外科学会骨・軟部腫瘍学術集会 参加報告
埼玉がんセンター 五木田茶舞
“熱処理”さながらの厳しい暑さの中、新宿京王プラザホテルにて第56回日整会骨・軟部腫瘍学術集会が、東京医科大学西田淳教授を会長に開催されました。
本学会テーマは、骨軟部腫瘍治療の未来:Jaffeのトライアングルに立ち返りながら( Looking to the future of musculoskeletal tumor surgery by revisiting Jaffe’s triangle )でした。「Jaffeのトライアングル」の考え方は、1958年にHenry L. Jaffeがその著書に、骨軟部腫瘍の診断・治療における整形外科医-病理医-放射線診断医の3者の共同(triangle)が必要であると述べたことから始まります。招待講演ではMayo ClinicのPeter S. Rose先生から関節機能再建術について、ACR Institute for Radiologic Pathology のMark D. Murphey 先生から骨軟部腫瘍の画像診断について、British Columbia大学のTorsten O. Nielsen 先生から軟部腫瘍の分子病理学診断と治療への応用についての講演があり、またJaffeのトライアングルセミナーでは国内を代表する放射線診断医、腫瘍整形外科医、病理医の講演がバランス良く盛り込まれ、まさにトライアングルが体現された学会であったと思います。
医科歯科腫瘍班にとって本学会は大変忙しい会だったのではないでしょうか。がん研有明13、埼玉がん7、大学2の合計22演題もの発表があり、講演4(がん研2、埼玉2)、シンポ・パネル8(がん研4、埼玉2、大学2)、座長6(がん研4、埼玉2)など、会のいたるところで皆が活躍していた印象です。阿江啓介先生は、1時間講演2本にシンポジウム、そして座長と休む間もなくこなされ、がん研有明病院の力を身をもってお示しになっていました。『枕草子』三十三の段の冒頭に、「説教の講師は、顔よき。講師の顔をつとまもらへたるこそ、その説くことのたふとさもおぼゆれ…」という一説があります。これは『説教の講師の顔はイケメンに限る。イケメン講師の顔に見惚れて話を聴くと、内容の深さもよくわかる』という意味です。阿江先生の腫瘍用人工関節の講演はまさにそれで、Megaprosthesisの合併症についてのロジックの通った考察は大変わかりやすく、多くの聴講者が深い内容に聴き惚れておりました。
やはり昨今の日整会関連学会にて、がんロコモネタは欠かせません。同門からは大学の佐藤信吾先生と当センターの小柳広高先生がそれぞれ、「骨転移とどう向き合うか」と「がんロコモのこれから」の二つのセッションでパネリストとして活躍されました。小柳先生が発表されたがんと骨粗鬆症は、当センターが腫瘍班の新しい“仕事”として重視しているテーマであり、元は私が2020年の日整会骨軟部で発表した、がん治療関連骨粗鬆症(Cancer Treatment Induced Bone Loss; CTIBL)についてのアンケート調査から始まっています。そこから間もない2021年1月、当時在籍の上杉先生が全国に類を見ない「がん骨粗鬆症外来」を立ち上げ、その後小柳先生と辻野先生が引き継いで診療を発展させてくれた経緯があって、本発表につながりました。今年の4月からは、当センターでは整形外科が主導するがん骨粗鬆症予防プロジェクト(Cancer Osteoporosis Prevention Project; 通称COPプロジェクト)が始まっており、病院を挙げてがん患者のBone Health に取り組んでいるところです。本学会でも帝京大学河野博隆教授が初めてCTIBLに関する講演をされたことから、本領域は今後増々重要なトピックスになると考えられ、学会報告やその他で我々の活躍を目にする機会が増えると思いますので、ご期待いただければと思います。
本学会では若手の先生方の活躍もありました。残念なことに会場が第6会場まであって皆さんの活躍がかぶってしまい、すべてを見ることができませんでした。よって一部のみのご紹介となってしまいます。ポスター発表では当センターから井上先生、石川先生。がん研から黒澤先生の発表を聴くことができました。石川先生はがん患者における脆弱性脊椎圧迫骨折のリスク因子について発表され、時間オーバー気味も伝えたい事をはっきりとプレゼンされて素晴らしかったと思います。井上先生は腫瘍用人工骨頭における外転再建後の良好な機能について発表し、聴講者から手術のコツを尋ねられ堂々と返答されこれも良かったです。また黒澤先生は患肢切断術後症例の予後規定因子の解析をされ、その完成度とポスターの綺麗さは目を見張るものがあり、小柳先生と“これは口演レベルだよね”と話した程でした。これらの発表を聞いていると、若手の皆さんはどなたも腫瘍班が一番向いてそうな先生ばかりと感じましたので、将来検討いただければと思います。ここに名前を挙げられなかった先生方もそれぞれしっかり活躍されたはずですので、発表を聞かれた上司の先生は良かった点をしっかりご評価いただければと思います。
さて最後になりますが、腫瘍班の皆さんは今回個人や施設としてどのようなプランで本学会に臨み、実行されたでしょうか。また何を得て毎日の診療に活かしているでしょうか。一つ一つの学会や研究活動から新たな知見や人との出会いを積み重ね、我々腫瘍班全体が大きく発展することを願って止みません。