病態
脊椎の骨と骨の間にある軟骨のクッションである椎間板の成分である髄核が線維輪の外へ脱出し、腰痛や下肢痛などの神経症状を出す病態を椎間板ヘルニアと呼びます。多くはL4/5、L5/Sに多く、この二つの椎間で全ヘルニアの80%を占めます。脊椎手術全体の約2-3割が腰椎椎間板ヘルニアに対する手術といわれています。ヘルニアの存在部位によってタイプ(正中型・椎間孔内型・外側型)に分けられています。
参考:日本整形外科学会HP
https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/lumbar_disc_herniation.html
症状
腰痛と下肢痛をきたす病態で、痛みが強い場合や持続する場合、生活の質や日常生活動作を損ねることが知られています。この病態の多くは、薬物療法を中心とした保存的治療によって軽快することが多いです。しかし、痛みが長期化したり、日常生活動作に制限が出ると手術を要することもあります。
検査
神経学的検査
体幹が痛みで前屈制限がある、下肢進展挙上(straight leg raising)テストもしくは大腿神経伸展(femoral nerve stretch)テストが陽性(前者は下位腰椎、後者は上位腰椎のヘルニアに陽性となる)となります。
単純X線
単純X線だけで椎間板ヘルニアを診断することはできませんが、変形性脊椎症や転移性腫瘍などと鑑別することが大事です。また痛みが強い場合は、疼痛を回避するように体幹を痛みとは逆の方向にそらす、非構築性側弯がみられることがあります。
MRI
ほとんどのヘルニアはMRIで診断可能です。若年の患者さんでは1つの椎間板ヘルニアで診断しやすいことが多い(下図)ですが、高齢者の椎間板ヘルニアは腰部脊柱管狭窄症と合併することがあり、診断に注意が必要です。
治療
・保存治療
腰椎椎間板ヘルニアに対する治療の第1選択は保存治療です。治療内容は下記が挙げられます。
① 薬物療法
非ステロイド性抗炎症薬、ガバペンチノイド(ガバペン・プレガバリン・ミロガバリン)、デュロキセチン、トラマドール、アセトアミノフェン、三環系抗うつ薬など
② 理学療法
温熱・牽引療法、外固定着用、運動療法
③ 神経ブロック療法
硬膜外ブロック、選択的神経根ブロック
これらの治療が奏功しない場合や急性期でも疼痛が強く生活動作に制限が強い場合や筋力低下が起きている場合は手術療法を選択することが多いです。
・手術療法
① 椎間板内酵素注入療法
コンドリアーゼ(商品名:ヘルニコア)をヘルニアがある椎間板に直接注射します。ヘルニアのタイプにより適応があり、治療を受ける際には医師の診察が必要です。注射後6か月で下肢痛が半減する患者はおよそ8割です(当科統計)。
② 椎間板摘出術
・Love法
片側部分椎弓切除によってヘルニア側の骨の一部と黄色靭帯を切除して神経を圧迫しているヘルニアを摘出します。術後は1-2日目に起き上がります。
・内視鏡下椎間板ヘルニア切除術(micro endoscopic discectomy: MED)
直径16-18mmのチューブを椎弓上に挿入し内視鏡で術野をモニターしながらLove法同様に手術を行います(図5)。