病態
DISHとはDiffuse Idiopathic Skeletal Hyperostosis (びまん性特発性骨増殖症)の略称です。脊椎や末梢腱・靭帯付着部に異所性に骨化が発生する病態です。正確な原因は未だに不明ですが肥満や糖尿病、高血圧などの代謝性疾患との関連性があると言われています。
日本人におけるDISHの有病率は8-12%と報告されていますが、年齢や性別で大きく特徴が異なります。高齢・男性で有病率が高くなることが知られており、70-80歳以上の男性では40%の方でDISHを有する事が報告されています。また同じく脊椎の靭帯骨化症である後縦靭帯骨化症の方の48.7%にDISHを認めると報告されています。
DISHの多くは胸椎に限局しますが、約10%の頻度で頚椎や腰椎など広範囲に脊椎が骨性に架橋されてしまう方が存在します。頚椎や腰椎まで進展するようなDISHでは嚥下障害が生じたり、脊柱不撓性(背骨が動かなくなって体の柔軟性がなくなる事)による障害が起こり得ます。
ただし同じく脊椎の靭帯が骨化/増大して脊柱管の狭窄をきたして神経障害をきたす後縦靭帯骨化症(OPLL)や黄色靭帯骨化症(OYL)とは異なり、DISH単独では神経障害や著しい疼痛をきたすことは稀な疾患です。
しかし近年超高齢社会となって高齢の患者さんが増えるにあたり、DISHの弊害が専門家の間で注目されるようになってきました。
症状
DISH単独の問題点として嚥下障害、肺の換気障害、腰部脊柱管狭窄症があります。しかし最も影響の大きなものは椎体骨折をきたした場合になります。
嚥下障害
DISHにより頚椎前方に骨化が生じ、頚椎可動性が制限された場合に、食事が飲み込みにくくなる嚥下障害をきたすことがあります。症状の顕著な例では手術で骨化巣を切除する事もありますが、嚥下障害をきたす方はDISHの中で0.1-6%と稀な症状であるとされています。
肺の換気障害
DISHにより胸椎と肋骨の癒合が起こると肺の換気障害が起こり、拘束型の換気障害に関係すると言われています。日常生活に影響するほどの換気障害に関与しているかは不明ですが、手術の際の全身麻酔に影響を及ぼす可能性があります。
腰部脊柱管狭窄症
腰部脊柱管狭窄症はDISHがなくても起こり得る変性疾患です。しかし腰椎まで及ぶようなDISHをおもちの方は手術を要するような腰部脊柱管狭窄症に発展しやすくなり(DISHのない方の約1.7倍)、手術後の再手術が2.0倍に増えると報告されています。
椎体骨折
一般的には80-85%が保存療法(安静・装具療法)で経過良好である椎体骨折(いわゆる圧迫骨折)ですが、DISHの骨性架橋の中で骨折が起こると遷延治癒や神経障害をきたしやすくなります。DISHによる骨性架橋のため骨折部に力学ストレスが集中するため保存療法では治癒しにくく、多くは手術治療を要します。
特にDISHを合併する胸腰椎の椎体骨折では軽微な外傷でも生じ、専門医が診察しても診断が遅れる事が多いため注意を要します。
治療
椎体骨折
椎体骨折の手術治療は骨折部にセメント等を充填する椎体形成術や、金属のスクリューなどを用いた後方固定術が一般的です。
DISHを合併する椎体骨折では集中する力学的ストレスに対応するため、DISHのない椎体骨折の手術よりも広範囲な固定を要します。しかしながら、糖尿病や高血圧など全身合併症をお持ちの方が多いDISHの手術治療ではより低侵襲な手術が望まれます。最近ではステント付きの椎体形成や椎体終板を貫通するスクリューを用いて、強固な脊椎固定性を得る事で固定範囲を短縮し、患者さまにとってより低侵襲な手術術式を実践しています。