概要
脊髄腫瘍は、一般的に髄内腫瘍、硬膜内髄外腫瘍(馬尾腫瘍も含む)、硬膜外腫瘍に分類されます。硬膜外腫瘍の多くは転移性の腫瘍です。硬膜内髄外腫瘍は全脊髄腫瘍の65% を占めており、もっとも頻度が高いです。代表的なものに神経鞘腫、神経線維腫、髄膜腫、粘液乳頭状上衣腫などがあります。髄内腫瘍は神経膠腫(glioma)が多く、神経膠腫には上衣腫、星状細胞腫があります。その他、髄内病変で代表的なものに海綿状血管腫、血管芽腫などがあります。
硬膜内髄外腫瘍の症状は、腫瘍の種類と局在によって異なります。神経鞘腫と神経線維腫は神経根から発生する腫瘍です。腫瘍が腰椎レベルに存在する場合は、下肢の疼痛、しびれ、知覚障害、筋力低下をひきおこすことが多いです。脊髄レベルに腫瘍が存在する場合は、四肢または両下肢のしびれ、歩行障害、筋力低下などの脊髄圧迫症状がみられます。髄膜腫は硬膜から発生する腫瘍です。73% が胸椎レベル、14% が頚椎レベルに発生するとの報告もあり、脊髄レベルでの発生が多いため、前述の筋力低下やしびれなどの知覚障害、膀胱直腸障害などの脊髄圧迫症状が多くみられます。髄内腫瘍、特に上衣腫では、上下に脊髄空洞症をおこすことも多く、空洞のある脊髄領域の表在感覚障害がある一方、振動覚や関節位置覚が保持されることもあします(解離性感覚障害)。
脊椎腫瘍は背骨(せぼね)骨の方から発生する腫瘍です。転移性の腫瘍が多数を占めますが、まれに原発性の腫瘍もあります。代表的なものに、骨巨細胞腫、血管腫、類骨骨腫、骨芽細胞腫などがあります。腫瘍が背骨を溶かすことによって病的な骨折が生じたり、脊椎からはみ出して、神経を圧迫することもあります。
検査
単純X線で脊髄腫瘍に特徴的な所見はありませんが、増大した腫瘍が椎体や椎弓根を侵食し、scallopingといわれる所見が認められることがあります。脊椎腫瘍は単純レントゲンにて骨破壊像や病的な骨折を認めることがあります。
MRI においては、多くの硬膜内髄外腫瘍ではT1 強調画像で等~低信号、T2 強調画像で等~高信号のパターンをとります。神経鞘腫・神経線維腫と髄膜腫の鑑別点としては、ガドリニウムによって神経鞘腫では内部の囊胞形成や壊死などを反映して不均一に、髄膜腫では均一に造影されることが多いです(図3,4)。また髄膜腫では、MRI において腫瘍の辺縁がなだらかな坂のように見えるdural tail sign(図5)や、CTにおいて腫瘍の石灰化が認められることがあり鑑別点となります。上衣腫などでは、腫瘍の上下に広範囲に空洞症をおこすこともあります(図6)。海綿状血管腫では周囲に出血が認められることもあります。
脊椎腫瘍の場合、腫瘍の局在や神経圧の迫評価にMRIを、骨破壊像の評価にはCTを行います。必要に応じて生検(組織を小さく採取し検査する)を行い、確定診断をします。
治療
偶発的に腫瘍が発見された場合など、臨床症状を呈していない場合には定期的な経過観察でよいのですが、症状を呈している場合は原則手術による摘出が適応となります。とくに脊髄圧迫症状を呈している場合は、放置すると四肢麻痺または対麻痺に至ることもあり、安易な経過観察は行わず、手術治療が選択される場合が多いです。髄内の海綿状血管腫などでは出血により急性に重度の麻痺が出現することがあり、緊急の処置が必要となることもあります。当院では、このような硬膜外腫瘍、硬膜内髄外腫瘍、髄内腫瘍、馬尾腫瘍の摘出を多数行っております。
脊椎腫瘍では、中には経過観察をしてよい血管腫などもあります。ただし、骨破壊が激しく、背骨の安定性が得られない場合、病的に骨折をおこしている場合、神経組織を圧迫している場合などで手術が行われることがあります。手術は必要に応じて腫瘍の摘出(部分摘出ないし全摘出)および、脊柱の再建などが行われます。腫瘍によっては、一塊として脊椎を摘出、再建する腫瘍脊椎全摘術(Total en bloc spondylectomy:TES)が行われることもあります。
当科では顕微鏡、脊髄機能モニタリングやナビゲーションを併用し、必要に応じて手術中に神経刺激を行いながら、可能な限り術後に麻痺がおこらないよう手術を行っております。また症例によっては、末梢血管外科、呼吸器外科、脳神経外科、血管内治療科など院内で連携し、できるだけ安全に手術を行うよう心がけております。