病態
腰部脊柱管狭窄症は、主に脊椎の加齢による変化(椎間板の変性、椎間関節の変形、黄色靭帯の肥厚など)により狭小化し、その内部にある馬尾や神経根の圧迫を来し、障害を生じている状態です。
また、変性すべり症は、主に椎間関節や椎間板の加齢による変化により、椎間板や関節・靱帯がゆるみ腰椎が不安定性(ぐらつき)を伴ってずれるようになり、脊柱管が狭窄することで神経が圧迫され生じます。女性に多く、40歳以降で、年齢とともに増加します。好発部位は第4腰椎であるということが特徴です。すべりによって脊柱管狭窄が出現するため、変性すべり症も広義の脊柱管狭窄といえます。
症状
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①下肢症状(痛み、しびれ、間欠跛行)
いわゆる坐骨神経痛と呼ばれるような下肢の痛みやしびれ感が発生します。また両下肢から会陰部にかけてのしびれや冷感、灼熱感、ひきつれ(つっぱり感)、締め付けなどが出現します。これらの症状は、おもに歩行により出現します。そのため、腰部脊柱管狭窄症では、長距離を続けて歩くことができなくなり、歩行と休息を繰り返す間欠性跛行という状態になります。
②膀胱直腸障害(排尿の異常)
進行すると、残尿感や頻尿、尿失禁などの排尿に関する異常を伴う場合もあります。
③腰痛
必ずしも全員に出るわけではありませんが、腰痛を来す場合もあります。動作時に増悪し、安静時には軽減することが多いです。
検査
- ①単純X線
脊柱のラインや椎間板の高さが減少していないかどうか、すべりの有無(図1)などを評価します。更に椎体間の不安定の評価のために、横になった状態で撮影を行うこともあります。また側弯や後弯変形があれば、全脊柱の撮影を行い、脊柱全体のバランスを調べます。
②MRI
非侵襲的に脊柱管内の脊髄や馬尾神経の圧迫の有無や、椎間板や椎間関節などを評価できる有用な検査です。(図2)
以下は病態に応じて行われる場合があります。
③脊髄造影
腰部から脊柱管内のくも膜下腔に造影剤を注入する検査で、立位による動的変化(屈曲・伸展負荷)を描出でき、造影後のCTにて詳細な画像を得ることができます。しかし、検査には針を使用し、造影剤を用いるなどやや侵襲的であり、入院を必要とします。
④神経根ブロック
治療目的の場合もありますが、診断の目的で行うことが多いです。X線透視下に神経根に針を刺入して、放散痛出現を確認し、造影剤を注入します。下肢放散痛の部位と、普段感じる下肢痛部位とが一致するかを確認します。
治療
腰部脊柱管狭窄症の自然経過は比較的良好とされており、保存治療が基本となります。しかし、保存治療で効果が得られず、下肢痛やしびれ、間欠性跛行などにより日常生活が制限される場合や筋力低下や膀胱直腸障害などの麻痺を有する場合は手術を検討する必要があると考えられます。
(1)保存治療
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①薬物治療
鎮痛薬、筋弛緩薬、ビタミンB12製剤、プロスタグランジンE1製剤が投与されます。
②神経ブロック
④硬膜外ブロック(腰椎または仙骨裂孔)、神経根ブロックなどがあります。
⑤外固定
腰部の進展を制限したコルセットなどを用いて腰部を固定します。
⑤運動療法
腹筋・背筋の強化訓練によって体幹バランスの向上を目指します。
(2)手術治療
特殊な例を除いて、全身麻酔で腰の後ろから腰椎を展開して行うことがほとんどです。脊柱管狭窄部位で椎間不安定性があるかどうかで、神経圧迫をとるだけの除圧術か固定も併用する除圧固定術かが決まります。
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①腰椎後方除圧術
不安定性のない腰部脊柱管狭窄症に対して、障害レベルの後方要素(骨の一部と肥厚した靱帯)を部分切除します。(図3)
②腰椎後方除圧固定術
すべり症などの椎間不安定性がある病態や除圧操作による椎間不安定性が出現する可能性がある場合、除圧操作に加えて固定術を行います。後方から脊柱管の除圧を行い、椎間板を摘出してケージと椎弓根スクリューを併用した固定を行います。(図4)
各椎体に2本スクリュー、椎体間のケージを入れ固定(後方椎体間固定術)を行っている
左:術前側面像
中:術後正面像
右:術後側面像