脳表ヘモジデリン沈着症(シデローシス)

病態

髄膜には外側から硬膜、くも膜、軟膜があります。硬膜は厚い組織で神経組織を守っており、くも膜はうすい透明の膜で内部に脳脊髄液が通い、軟膜は脊髄表面にはりつく非常に薄い膜です。近年、硬膜の異常を伴う病態が報告されています。2012年にKumarらによって提唱された概念で、Duropathies(硬膜異常症)という疾患群です。特発性もしくは医原性に硬膜の欠損もしくは損傷によって、髄液が漏出することでおこる疾患群です。具体的には脳脊髄液漏出症(低髄液圧症候群)、脳表ヘモジデリン沈着症、脊髄ヘルニア、硬膜外くも膜嚢胞、多髄節性筋萎縮症などが含まれます。特に硬膜異常に伴う脳表ヘモジデリン沈着症(superficial siderosis: SS)は中枢神経系に進行性の障害を引き起こす難治性疾患であり、近年、注目されています。
脳表ヘモジデリン沈着症では、持続的に繰りかえす出血により、血液のヘモジデリンが脳、脊髄表面に沈着して、酸化ストレスにより神経の障害を引き起こします。症状は、難聴、嗅覚障害、味覚障害、頭痛、複視、歩行障害、ふらつき、排尿障害、認知障害など多岐にわたります。脳表ヘモジデリン沈着症は難病指定されており、当院神経難病先端医療センター(https://www.tmd.ac.jp/medhospital/medical/disease/shinkei.html)でも、積極的に患者さんを診察しております。
脳表ヘモジデリン沈着症は脊髄腫瘍や動静脈奇形などの血管異常でも起こりえますが、特発性のものでは硬膜異常症に伴うものが多いと言われております。硬膜の腹側に穴が開いており(硬膜欠損)、硬膜の腹側に髄液が漏れることに起因して神経組織に出血、ヘモジデリン沈着がおこります。詳細は不明ながら、本来くも膜の内側にある脳脊髄液が漏出することで、その外側の血管が怒張し、出血しやすい状態となり、髄液が持続性に流入することにより、出血を繰り返し、くも膜内に逆流するのではないかと考えられております。

検査

脳表ヘモジデリン沈着は、症脳MRI、T2強調画像、T2*画像などで脳、小脳、脳幹部表面へのヘモジデリン沈着により診断がつきます。脊椎のMRI、T2強調画像でも脊髄にヘモジデリン沈着を認めます。硬膜欠損に伴う脳表ヘモジデリン沈着症では、硬膜の穴の位置を見つけることが非常に重要となります。しかしながら、穴が小さい症例では、欠損部位の同定が非常に困難なことがあります。当科では、手術治療が必要な症例に対し、特殊な高解像度MRI撮影(CISS、FIESTA撮影)や新しい高解像4DCT脊髄造影検査により、硬膜欠損の位置を正確に同定し、治療を行っております。

頭部MRI矢印:ヘモジデリンの沈着、脊髄MRI矢印:腹側の髄液貯留

MRI FIESTA画像による硬膜欠損部同定

治療

現在、唯一の治療はこの硬膜の欠損を修復することです。通常は後方から、椎弓を切除し、硬膜の背側を切開して、脊髄のわきから、硬膜の腹側にある欠損部を修復します。髄液の漏れがとまることで、出血も止まることが確認されております。ただし、手術は主に進行防止の目的で行われ、中枢神経の障害自体は劇的な回復は難しいのが現状です。このことから早期の発見、早期の治療が望まれます。また、現在、当院神経内科では神経の障害を引き起こすヘモジデリンの鉄分を取り除くキレート剤を用いた治療も行っております。当科では、神経内科、放射線科、耳鼻科とも連携し、疾患の進行予防、症状改善に最適な治療を行っております。全国から患者さんをご紹介いただき、本邦で最も多くの患者さんを治療しております。

硬膜欠損部の縫合 

 

症例に応じて内視鏡視下で低侵襲に縫合を行っております。

 

  

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